五蘊盛苦(ごうんじょうく)

五蘊盛苦(ごうんじょうく) 物語

酒が俺の救いだった。仕事の面接では落とされ続け、もう長らく無職のままだ。何も考えたくないからテレビばかり見ている。流しっぱなし。頭には入っていない。何も考えられない。

酒を飲んでテレビを観る。頭が回らず、自分が無くなる、無になる。至福の時間。そんな状態を3か月続けていたら、息子に無理やり病院に連れて来られた。俺は正常だ。今はやめてくれ。俺は正常だ。今はやめてくれ。そう言い続けているのに聞く耳を持たない。有無を言わさずだ。最低な息子だ。

病院でアルコール依存症と言われた。入院だった。意味がわからない。多少飲み過ぎていたかもしれないが、俺は普通なのに。

最初の1か月は地獄だった。幻覚が見える。誰かが大声でずっと俺の名前を呼んでいる。うるさい。前の職場の上司がみえる。殺したい。

2か月目、正常な感覚に戻った。俺はアルコールに依存していた。自覚した。入院した日を思い出した。最低だと思った息子は泣いていた。

3か月過ぎた。今日は退院の日だ。家族みんなが迎えに来てくれた。嬉しい。入院中は後悔していた。もう2度と酒は飲むまい。そう誓った。

帰り道、退院祝いのためスーパーで食材を買う事になった。家族は俺のために色々買ってくれている。嬉しそうだ。俺も嬉しい。久しぶりに幸せを感じた。俺は穏やかな心でみんなから離れ、ワンカップ酒を手に取り、レジに向かった。

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