DIVERSION

diversion コラム

寒さで突き抜ける夜空を眺め、僕は走り始めた。久ぶりの運動だ。思っていたより体が動くのは、日々トレーニングを怠らないので、病気の療養が良い休養になったのかもしれない。そうして考える余裕があると、思考が夜空の虚無に吸い込まれるように浮き上がってくる。

1週間前、僕は体調を崩した。コロナ陽性だった。その時に去来した想いは「周りに迷惑を掛けてしまう。借りを作りたくない。」だ。基本的に一人が好きで、誰からも干渉されることを拒んできた。その方が気楽で生きやすかった。人は一人では生きてはいけないとはよく言う。確かにそうだ。でも現代社会では一人でいる時間を極大化できる構造になっている。恐らく僕は、人類に時々存在する「孤独がメンタルに悪影響を及ぼさない人間」なのではないかと思う。一人でいることをつらいと思ったことがないからだ。

コロナ陽性になったことで、濃厚接触者に迷惑を掛けてしまい、借りを作り、気楽で入れなくなる。そんな思考回路が最初に発露したものだった。孤独を好む性質ゆえか、はたまた日本社会の教育の賜物か。

その後、職場で自分とは違うルートでクラスターが発生していたことから、自分が迷惑を掛けるという線はなくなった。運よく罹患しなかった人は、てんやわんやだろうが。

しかし、一人だけ迷惑を掛けてしまった人がいた。弟だ。発症前に接触していて、僕の陽性が判明した日に発熱していた。僕はlineで謝罪した。弟は結婚していて、奥さんは妊娠中だった。

気が気ではなかった。奥さんは一度流産している。その時は当然だが、ひどく落ち込んだらしい。今回、万が一弟から奥さんに移り、妊娠中の子供に影響があったなら・・・。

弟は気にする必要はないと言ってくれた。私には相応しくないくらいの、出来た弟だ。しかし、気にしないわけにはいかない。ネットで妊娠中のコロナ罹患について調べたりもした。それには、コロナは妊娠への影響少ないとなっていたが、それは統計学的な研究であり、弟の奥さんはどうなるかは分からない。

数日後、弟は回復した。喉の痛みは引かないと言っているが。奥さんの事を聞くと、発症しなかったらしい。私は心の底から安堵した。弟に今度見舞い品を持っていくと提案した。弟が罹患したのは私のせいだから。弟は申し出を断り、こう言った。

「兄貴から移ったかは分からない。たまたまかもしれないし。見舞い品より、子供生まれたとかお祝いの事の時になんか頂戴」

人は一人では生きていけない。でも他人と関わるからこそ、人生の良い面に目を向けて生きることができる。

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